【永遠のチョコレート】
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ナミさん、こんな話を知っているかい?
* * * * *
例えばここに一枚の板チョコがある。
規則正しく割れ目の入った何の変哲もないそれを、
まずは半分に折ってみよう。
折ったかい?
それじゃあ片方は食べてしまっていいよ。
そしたら残った半分をさらに半分に折って、
すぐにまた片方を食べるんだ、溶けてしまう前に。
そうやって同じことを繰り返していってみよう。
繰り返すたびに残りはどんどん小さくなっていくでしょ。
当たり前?
そうだね。
だけどよく考えてみて。
半分に折って食べて、
片方はとっておく、
それを繰り返す…
何が言いたいかって?
まあ、せっかく再会できたんだ。
そんなに焦らないでさ、少しだけ耳を貸して、
ナミさん…
* * *
ついこの間までひとつの塊だったおれ達一味は、
やつの…いや、やつらの手によって引き裂かれてしまった。
…そんな顔しないで、思い出したくもないのはおれも一緒なんだ。
果たして、おれの飛ばされた先は地獄だったよ。
いや、飛ばされる前の方がおれにとっては地獄のようだったな。
何もできずに逃げ惑うだけのおれの目の前でひとりずつ消えてゆき、
ついには自分も消された。
その時に見た地獄、
それはナミさん、君の顔だよ。
あ痛てっ!
…最後まで聞いて?
お互い経験したからわかるだろうが、
消されたというよりあれは、超高速で飛ばされたんだよな。
初めての経験だったが、ひどく不思議な感覚だった。
あのクマ野郎の掌から膨大な圧力を感じ、
まずは下半身がすごい勢いで左上部に引っ張られた。
そのあと上半身、首、頭と下から順に左側の空間に吸い込まれるような感覚に襲われた。
しかし、光速さながらに飛ばされたというにもかかわらず、
あまりのスピードに逆に視力が追いつかなかったんだろうな。
飛ばされる寸前、おれは無意識にとらえていたナミさんがいる方向を見やった。
その時のナミさんの恐怖にひきつった顔が、
絶望と畏怖に揺れたその瞳が、
影送りの様におれの脳裏に焼きついた。
目を閉じたって浮かんでくるんだ。
ナミさんのその表情がフラッシュバックするたびに、
おれは自分の不甲斐なさを呪ったよ。
そうしておれ達はバラバラに飛ばれされ…
いや、バラバラかどうかなんてその時点では誰にも分らなかったことだが…
少なくとも「おれとナミさん」は離ればなれになっちまった…!
ああ!!これ以上の悲劇があるだろうか!?
…ひてて、頬っぺたのびる。
ごめんよちょっと当時の恐怖が蘇って興奮しちまった。
だけどなナミさん、
おれは信じてたんだ。
何をって、おれたちはまたひとつに集まれるってことをさ。
まあぶっちゃけ最初はあの悪魔の島で心が折れちまいそうだったよ。
思い出しただけで今でもぞっとする。
ほら、鳥肌。
…そこで、おれは自分に暗示をかけることにした――
それがさっきのチョコレートのくだりだ。
さっきの話、覚えてる?
チョコレートを半分に折って食べて、
片方はとっておく、
それを繰り返す…
すると最終的にチョコレートはどうなると思う?
なくなる?
そうじゃない。
よく考えて?
ルールさえ守っていれば、
どんなに小さくなってもチョコレートはなくなることはない。
だって半分は絶対とっておくんだもん。
そう、驚くべきことにいくら食べ続けようと、
理論上、チョコレートは永遠になくならないんだ。
だから何だって?
そう、だから、おれはここにいる。
あ痛たー!!
最後まで聞いてって!!お願いします聞いてください!!
…んん、ごほん。
おれが自分に掛けた暗示…
それはおれがまだバラティエで見習いやってたガキの頃、
どこぞの海のお客から伝え聞いたこの話のチョコレートを、
一味に置き換えることだった。
チョコレート全体が麦わらの一味と考えたんだ。
半分に折ったら一味の力も半分。
そのまた半分に折ったらまた半分に…
そうして力は減っていくけれど、
一味は塊だからどんなに折られようとバラバラになることはない。
だってそうだろ?
ここまでくるのにえれえ色々あったが、
仲間は増えさえすれど減ったことはなかったんだから。
ああ、もちろんビビちゃんだって塊の一部だぜ?
居る場所も元気なのも分かってるんだ、
彼女は麦わらの一味だ。
おっと話がそれた。
そろそろ眠くなってきたかい?
ごめんなさいもう佳境です。
えー…つまりだ、おれは信じた。
おれ達の結束は固ェ。
どんなにバキバキに折られて食べられても、
チョコレートの塊の一部であるおれがここに居るってことは、
塊を形成する他の仲間達も健在なはずだ…ってな。
そう言い聞かせて、おれはあの地獄のような日々を乗り越えたんだ。
*
……ハハハ、無理やりだよなー…
だけどよ、こんな暗示でもかけないことには、
おれ、ぶっ壊れちまいそうだったからさ。
…そんな顔しないで?
聞いてくれてありがとう、ナミさん。
*
ナミさんはおれの腕の中で小さくうなずくと、
とろとろと瞼を落とした。
おれはその顎を持ちあげて、
薄く開いた唇の横に付着したチョコレートを親指で拭う。
するとナミさんはくすぐったそうに口の端を上げた。
そしてナミさんから自身の指に移ったチョコレートを舐め上げて、
その量からは想像もつかないほどの甘味に酔いしれる。
ねえナミさん、
これから、二人だけのチョコレートを作ろうか。
おれ、カカオの調合からするぜ?
END
2010/7
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