【ぶくぶく】

-P5-



おれは真横にあるオレンジに顔をうずめ、
1回だけ頬ずりをしてからごめん、とつぶやいた。



悲しませてごめん。



守りきれなくって、ごめん。



ナミさんは再度「ばか」とだけつぶやくと、
おれの首に回した腕に力をこめた。

おれは苦しくって、ちょっとだけ涙がでてしまった。

苦しかったのは、呼吸だけじゃないんだけど。

それからこっそり涙を拭ってナミさんを地面におろし、
今度は包み込むようにそっと、抱きしめた。



この期に及んで、抵抗だけはよしてくれよ・・・?



そんな危惧は杞憂に終わり、
彼女の細い両腕はおれの背中にゆっくりとまわされる。

そして周りからはなぜか、拍手喝采が沸き起こった。



* * *



おれたちはさすがに恥ずかしくって、
少し離れた場所にあるカフェに逃げ込むように入った。

彼女がしこたま買い込んだショッパーを抱えて、
彼女が選んだテラス席に腰を下ろす。

なんか、デートみてェだな。でゅふふ!

「なーにがデートよ!」

「あれ?声に出てた?」

「ったくよく言うわ!人のこと泣かせといて、のんきなものね!!」

そう言ってナミさんはぷいっと横を向く。

「ごめんよ〜だけど、ナミさんがおれのことそんっっなに心配していてくれたなんて・・・」

さっきの彼女の台詞を思い出しておれが鼻の下を普段の倍の長さにすると、
ナミさんはふてくされたようにオーダーしたソーダ水のストローに口をつける。

そして、反論のかわりにストローに息を送って、
マリンブルーのそれにぶくぶくと泡を立てた。



ああ、おれの恋心はそのあぶくのように、
彼女によって次々と生み出されるんだ!



「・・・心配、するわよ。仲間じゃない」



・・・・・・・・そして、次々と弾けて消えてゆく・・・



おれは人魚姫ならぬ人魚王子かのように、
海の泡となって消えちまいませんようにと願いをこめて、
テーブルに置かれた彼女の手にそっと自分の手を伸ばした。



受け止めてくれたならおれは、
この恋の深みにさらに嵌っていくんだろうな。






それはもう、ぶくぶくと。





END
2008/10



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