【ぶくぶく】
-P4-
さっきから往来の真ん中でもめていた男女が
今度は急にお姫様抱っこなんかしてるもんだから、
通行人は足を止め見物人よろしくおれたちを囲み始めた。
「ばかばかばかっ!おーろーせー!!」
ナミさんはおれの腕の中で手足をばたつかせて暴れているが、
おれはおかまいなしだ。
だけどこれじゃあ話にならねェな。
おれは半ベソかいて抵抗するナミさんに、
心の中でごめんとつぶやいてから抱く腕に力を入れた。
ナミさんが痛っと小さく声を上げる。
そして少し動きが弱まった彼女の鼻先にまで顔を寄せた。
「ナミさん、今これ以上暴れたら、顔がぶつかっちゃうよ?」
顔がぶつかるイコール、キスだ。
ナミさんはさすがに動きを止め、
涙をいっぱいに湛えた瞳でおれをにらむ。
あああ、クソ可愛い・・・じゃなくって。
「ナミさん、“これ”で思い出した?」
おれは“これ”のときに両腕を少し上に傾けて、
口の端も一緒に角度を上げた。
「こうやって、ずっとあんたを抱えてた。
・・・覚えてるでしょ?」
「・・・・・・・・んもうっ・・・降参だわ!」
ナミさんは傾いた拍子にこぼれた涙を拭うように、
おれの首もとに顔を沈めてつぶやき、そして続けた。
「覚えてるわよ・・・・・・忘れられるわけ、ないじゃない!」
「・・・・・・・私のためにあんな無茶、もうしないで・・・」
ついにはおれの首に両腕を回して泣き出してしまった彼女に、
今度はおれが降参をしたくなった。
その可愛さは、もはや凶器だよ。
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