【フロリゲン】
-P1-
私の名前はマーガレット。
花の名を持つも、
未だ、つぼみ。
* * * * *
村の年長者から伝え聞くだけだった“男”という生き物は、
さながら“犬”や“猫”と一緒の感覚で。
だけどなぜかしら、
今この宴会場で皆にひっぱられて触られて、
伸びたり縮んだりしているあの“男”を見ていると、
まるであのときみたいに胸が狭くなる。
そう、あのとき。
海賊団の一員だった母親が、
私を置いてこの地を去ったときのように。
私が5つのとき母は生まれたばかりの妹を連れて、
その父親の元へ発ってしまった。
私も、私の父親も、彼女に“選ばれなかった”ということだ。
こんなに盛大な宴会はきっと初めてで、
皆この上なく楽しそうだし何よりだわ。
だけど私はぼんやりとそんなことを考えていて、
輪の中に入ることができずにいた。
ところが、見るともなしに見ていた輪の中心にいる“男”と目が合うと、
それまで曇った鏡みたいだった視界は急に磨き上げられたように乱反射し、
頭の後ろに響いて痺れた。
男は食べ物をいっぱいに含んだ口だけを大きく動かして、
視線はこちらに固定したまま動かない。
相変わらず皆に身体のあちこちをつままれているが、お構いなしだ。
私はそのまっすぐな視線に射抜かれて、
壁に張付けになったみたいに動けなくなってしまった。
後頭部の痺れが涙腺を刺激して再び視界がぼやけてきたものだから、
男が皆をふりはらってこちらに駆け寄ってきたのに気づいたときにはすでに、
私は伸びた男の腕に絡めとられていた。
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