【愛の】
-P4-
「おれは……イライラすんだよお前を見てると!」
髪ごと後頭部を掴んでいる彼の左手に力が加わる。
「なら、なぜ私を見るの」
「知りてェんだ」
そう言って彼は私が聞き返す前に、左手を自身に引き寄せた。
咬みつかれる。
そう思うと同時に私の唇は、彼に食われてしまっていた。
やっぱり私は獲物だったのだ。
彼は私の頭蓋に左手を沿わせて固定し、
自らの角度を左右に変えて私を貪る。
もう片方の手がどこにあるのかは知らない。
ただ片手だけで支えられているのは確かなのだから、
逃げようと思えば逃げられるはずだ。
だけど私はやっぱり、この距離を広げたりしたくなかったんだ。
そうしてふと視線を落とすと、彼の右手は腰の獲物に添えられていた。
私の両手は行き場がなくて、だらしなく床に垂らしたままだった。
長いのか、短いのかわからない時間から解放され、
上がってしまった息を落ち着かせている横で彼が口を開く。
「――知りたいと思ったんだ、イラつく訳を」
「ああ、そうなの。だけど見ているだけじゃわからないんじゃなくて?」
「だから、試してみた」
「それで?」
「……やっぱりわからねェ」
「ふふっ」
私が思わず吹き出すと、彼は不機嫌そうに聞き返す。
「これで満足かよ、聞きたいことってェのはよ」
「あら、“聞きたいこと”なんて言っていないわ、“知りたいこと”があるの」
「どっちだって同じだ」
「違うわ、聞いたってあなたは“まだ”答えられない」
「……そうかよ」
それから彼は見張り頼む、とだけ言ってマストから飛び降りると、
そのまま船の後方の闇に消えて行った。
私の体調なんてお構いなしなのよね。
まったく、興味深い人。
急に肌寒さを感じて床に落ちたショールを羽織りなおしていると、
後方からざばんと海に飛び込む音がした。
そうよ、答えてほしいわけじゃない。
私はただ、知りたいのだ。
幼い頃からずっと探しているその意味を。
彼が言いたかったことはわかってる。
始終目が合うってことは、私もあなたを見ていたということ。
それはあなたの瞳の中に、
かばってくれたその背中に、
答えのかけらを見つけたからだわ。
これは予測ではなく予感なのだけれど、
あなたがイラつく訳を知る時に私もきっと、
知ることができるんじゃないかしら。
求めて止まない、
愛の、意味を。
END
2009/5
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