【愛の】
-P3-
「まあいいさ、で?まさか本当に歳聞くために上がってきたんじゃねェんだろ」
「違うわ」
私は彼の瞳を正面から真直ぐに見据えた。
その距離は、かつてない程の短さだ。
もともとひとり分のスペースしかないこの見張り台に、
大のおとなが二人も腰をおろしているのだから無理もない。
息遣いがわかる距離で彼は、
決して目をそらすことなく私を見返す。
冷えた頬に、彼の息が当たる。
呼吸とは意識したとたん、別人のそれのように扱いづらくなるものだ。
私がそうなように、彼もそうなのだろうか。
心なしかその呼気の量が増えたような気がする。
それでも、私はこの距離を広げたりしたくなかった。
「あなた……」
彼が私の質問に、嘘をついてもわかるように。
「なんだ、言えよ」
「なぜいつも、私を見るの」
不思議でならなかった。
気がつくといつも私は見られていた。
自意識過剰ではなく、確かに目が合うのだ。
私はずっとその理由を聞いてみたくって、機会を窺っていた。
「な……ッ」
彼は再度目を剥く。
「それはこっちのセリフだ!」
「え?」
大声で言う勢いを借りて腰を引いた彼と私の間の距離がわずかに広がったことに、
なぜだかかすかな違算感を覚える。
「……どういうことかしら」
考古学者なんて好奇心が原動力のようなものだ。
私の感興はもう溢れそうで、
広がった距離を縮めるように身を乗り出して訊ねた。
「こっちが聞きてェよ」
先ほどよりさらに間近に迫った私から顔をそらし、
ふてくされたように彼は言う。
「理由はないの?
理由もなく私を目で追うの」
「お前こそ…!」
私のセリフに反応した彼が勢いよくこちらを振り向く。
互いの鼻先が触れそうな距離だ。
月光に照らされた彼の頬はなぜだか赤みを帯びて―
「あなた……色っぽいのね」
「……ッおれは…!」
私が思わず零した言葉に彼はますます頬を紅潮させる。
「どうしたの…痛いっ」
私が首をかしげると、急に後ろ髪を鷲掴みにされた。
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