-P1-
黄昏の時、男はいつものようにそろそろ蝋燭に灯を点そうと
一日の職務でくたくたになった体を持ち上げた。
神に仕えるという仕事は、
男がかつて国兵として任務に就いていたときの厳しさを凌駕していた。
世界の南半球にあるこの海沿いの街の空気は常に清澄で
陽の光には最大の魅力を引き出させるが、
男にはその光は強すぎて痛く、
清涼だが少し乾いたこの地の空気は息苦しかった。
特にこの時間帯聖堂内には濃い朱色の光がステンドグラスを通して射し込み、
そこに舞う数多の埃をきらきらとちらつかせる。
男はその光の一つ一つに死者の顔を見た。
いつものことだ。
― 黒海 ―
かつてあった世界大戦時、
彼の地で葬ってきた無数の魂から
解放される日は来るのだろうか。
男はおそらく答えの出ることのない問いを
その白く多くの戦痕を刻んだ体に抱え、
手を重ね合わせて俯き金色の髪を前に流した。
体ではなく精神を酷使する聖職は
男にとって罰責であり、
また、しょく罪でもあるのだった。
そのとき聖堂の入り口がぎぎい、と大げさな音をたてて開き、
急に溢れた赤い光の洪水に男は思わず目を細める。
逢魔が時は、大禍時だ。
いつでも“魔”は、禍を纏ってやってくる。