【黒海】

-P2-







「神父様、懺悔をしたいのだけど」



緋色の光を纏って聖堂に入って来た女は、
入口付近にたたずんだままあたりまえのように言った。



逆光で顔は見えないが、声からしてまだ年若い。



「申し訳ありません、もう時間を過ぎていまして」



男は目を凝らして女の顔を確かめようともせずに、そっけなく告げた。



「あら、神様に刻限があるの?
そんな話聞いたこともないわ」


たしかにいつもならどんな時間でもここに自分がいるかぎり、
迷える子羊たちの告解を聞いている。



しかし男はこの不吉な予感に、
そう告げざるを得なかった。







この者に関わってはいけない。







神のお告げならぬ、死者たちの警告だろうか。



男はそれを聞き入れることにした。




「そう申されましても、ここはもう閉めてしまいますので」



「そう」


女は返事をしたにも関わらず、
つかつかと聖堂に踏み入って来た。



「そこな方、困ります」



男が少し慌てて女に近づくと、
今度ははっきりと女の容貌が確認できた。









真っ白なナース服を窮屈そうに身に纏い
オレンジ色の髪をしたこの美しい女を、



男は知っていたし、



女は男を知っていた。










知っているから、ここへ来たのだ。








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