【フロリゲン】
-P3-
天井裏をつたってこっそりと屋根の上に出た私たちは、
あたりが鎮まるのを待って
村はずれにあるニョン婆様の屋敷で落ち着こうという話になった。
だから今は身をひそめるだけなのに、
男は私を持ち上げたまま一向に降ろそうとしない。
「……ねえ、自分で歩けるから」
やっと出たその声はひどく上ずっていて、
かすれた声の振動は夜の闇に震えて消えた。
「お、そうだな、ごめん」
私の訴えを受けて、
男は割れやすい卵を扱うようにそっと、
瓦屋根の上に私をおろす。
「……聞いていいか」
「おう、なんだァ?」
「男とは…みんなあなたみたいなの?」
「おれみたいなって…え?」
「みんなあなたのような容姿で、あなたのような考え方をするの」
「んーまあ大体おんなしじゃねェか?
伸びるか伸びないかって言ったら伸びねェけど」
「いや、そういうことじゃ…」
「あ、ごめんさっき男はみんな急に太るとか言っちゃったけどあれは嘘です」
「だから!そういうことではなくて!!」
私が声を荒げると、男は少しのけぞって構えをとった。
「…別に攻撃はしない、腕を下ろせ」
「おっそうか、よかったーお前わりと強いからな!」
男はおっかねえ、と言っているわりに両手を頭の後ろで組んでニヤニヤしている。
私は困惑した。
「私は…わからない。母の愛した“男”という生き物が」
「お前の…母ちゃん?」
「ええ、私の母は海賊団員だったのだけれど、
妹をつれて島を出たきりなの。
行き先は妹の父親の…“男”のところだわ」
「ふうん?」
話の真意がつかめないのか、男は首をかしげている。
「私を……捨ててまで会いに行った男という生き物がどんなものなのか、
私はずっと知りたかった」
「おめえ“捨てられた”のか?」
「……そうだ」
男はなんのためらいもなく私にむかって問いかけた。
ひとつわかった。
男というものは容赦ない。
「……ごめんなさい、もういいわ。私ったら会ったばかりの人にこんな話」
「そうか?でもよ、お前捨てられたと思ってるのか?」
「事実じゃないか」
「迎えに来るとは思わねェのか?」
「は………?」
私はやっぱりわからない。
母さんが愛した“男”という生き物が。
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