【花火花】
-P5-
そんな綺麗な顔で見つめないで。
意識してしまうと、もうだめ。
言いたかった言葉は吹っ飛び、
全身の感覚は、彼のいる右側に集中する。
「でも・・・なあに?」
彼の半身が傾き、私を覗き込むように正面にまわる。
声の響きは、ひどく、甘い。
「・・・忘れた」
「嘘」
「嘘じゃな・・・」
そういいかけて顔を上げたすぐのところに、
彼の鼻先があった。
吐息がかかる。
「ナミさん、おしえて?」
「だから、忘れたの・・・」
もはやこの囁き声のやり取りに、中身はない。
私も彼も、きっかけを待ってる。
私も彼も、吐息の温度がやけに高い。
たまらず、何か言おうと口を開けたところを、
塞がれた。
もう、言葉は必要ない。
思ったより柔らかい彼の唇が、
私のそれをついばむ。
そして、開いた唇からは、
かすかにアルコールのにおいがした。
止まらない彼の舌が口内をかき回す。
私は呼吸ができなくて鼻で息を吐く。
そうすると、声も一緒に漏れてしまった。
「ん・・・」
それが合図のように、彼は私から唇を離し、
一瞬顔を合わせる。
彼の眉間にはしわが寄り、
唇は私の唾液で濡れている。
ただ、月を背にした彼の顔色は、
影になって見えなかった。
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