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男が懺悔室に入ると、
すでに小窓の向こうで女は俯いていた。
小窓といっても特に隔たりはなく、
ちょうど互いの口元が見えるくらいの“穴”のようなものだ。
男が懺悔室の扉を閉めると、
女は待っていたかのようにさっと顎を上に傾けた。
「迷える子羊よ、汝の罪を告白しなさい」
「はい、神父様」
神に赦しを請うものとしては、女の声は弾んでいる。
男はそれを特に咎めることもなく、女に続きを促した。
「神父様…私ね、今はこの街の病院に勤めているのよ?」
「…そうですか」
「あの場所は二度と赴きたくないわ。
戦争なんて大嫌い!!唯一よかったのは、
あの土地がオレンジの産地だったことくらいかしら」
「…告白しなさい」
「私、この髪の色と同じオレンジが大好きなの!
神父様は…」
「悔い改めることがないのなら、退室なさい!!」
男が突然声を荒げたものだから、
女はとっさに顎を引いて身を縮めた。
何を感情的になる。
彼の地で散々踏みにじり
死臭と一緒になって鼻をついたあの、
オレンジの香りを思い出したからか。
「ごめんなさい神父様。だけど私、嬉しくて」
暫しの沈黙ののち、女が小さく口を開く。
「さっきも言ったけど、あんたが忘れられなくて…
あんたを探してこの街に来たの」
女は体を正面に向け、ゆっくりと腕を持ち上げる。
「あのとき、傷ついたあんたを手当てしたあの日から、
ひとつ残ったそのブルーの瞳がまぶたに焼き付いて消えないのよ…」
そしてそのまま持ち上げた手を、小窓に近づける。
「ねえ、神父様。あんたも覚えているのでしょう?
触れ合ったのは手当てのときだけだけど、
私の指先も、あんたの肌全部も、熱かったわ」
「左目はもう、痛くない……?」
ついには“穴”を通って男の唇に触れ、
女の細い指は男の薄い唇を割って入った。
「神よ、お赦しください……」
声に出さずに請うた赦しは、
どちらに向けられたものか。
男は女の手を掴んで引き離し、
転がるように懺悔室から出た。