【スティル・グリーン】

-P12-



それでも仕事は仕事だ。

おれは渋々とオーダーを取りに行った。

しかし席に座っているのが女性であることを認識すると、
自然と“渋々”は“静々”に変わる。

レディにはソフトに。
ガキの頃から叩き込まれてきたことだ。

「ご注文はお決まりで?レイディース」

おれは彼女たちとさほどかわらない身長をさらに低く下げ、
メニューを差し出しながら“いらっしょいませ”のポーズをとった。

「あら!なんて可愛らしい」

二人連れの客の一人がおれを見て微笑む。

二人とも年はまだ若そうだが漂う気品と色気からして、
どこぞの名のあるマダムだろうか。
頬の色はばら色で、見ているこちらまで幸せな気分になる。

「お勧めはなにかしら、ぼうや?」

もう一人の女性が、
綺麗に整えられた太い眉の片方だけを器用にを持ち上げ、
上から見下ろすかたちで問うた。

おれは姿勢を正し、
決して“ぼうや”ではないと云わんばかりにすまし声を出す。

「本日は活きのいいソードフィッシュが入っております。
コースでよろしいですか?」

「そうねえ、あと季節のお野菜があったらいただきたいわ。」

「かしこまりました、マダム」

今度は太眉の女性の方に視線をかえ、問いかける。

「苦手な食材はございますか?」

「特にないわ。ありがとう」

「・・・・・・・」

会話は終わったのに、
太眉の女性はなぜかおれから視線をはずさない。

「マダム、そんなに見つめられると恋に落ちてしまいます」

ばら色の女性がうふふ、と笑い声を漏らす。

しかし太眉の女性は怪訝そうな表情になり、
視線をそらさずおれに言った。

「・・・あなた、どこかで見たことあるわね」

「おれを・・・でございますか?」

今度はおれの表情が怪訝になる。

「あなた出身はどこ?その肌の色からして、
 イーストじゃないでしょ」

「あ、はい、ノースです」

言い切られるかたちで問われたので、
おれはつい本当のことを答えてしまい、
すぐに後悔した。

すぐ近くのテーブルでオーダーをとっている
ウエイターが耳をそば立てているような気がしてならない。

ここで素性がばれたらジジイはきっと、
おれをここに置き続けることはしないだろう。

それだけはあっちゃいけねェんだ。

「そう、やっぱりね!
 主人がノースブルー出身だから、
 すぐにわかったわ。」

「左様ですか」

一刻も早くこの場を立ち去りたくて、
手短に相槌を打つ。

「それにしてもどこで見たのかしら・・・
 確かに見覚えがある顔なのよね」

おれは必死に思い出そうとしている彼女の
記憶が喪失してくれることを切に願った。

心臓が早鐘を打つ。

もういい、立ち去ってしまえ!
堪えきれず片足を下げたところで、
ばら色の女性が手を打ち合わせた。

「わかった!アパレシタ、これじゃない?」

彼女はアパレシタと呼称された太眉の女性に、
一枚の紙を手渡した。

「ああ!これよこれ!なるほどねえ、
 よく似ているわ」

彼女が差し出したのは、
おれが配ったマシコの尋ね人のチラシだった。

マシコの似顔絵の下には、
カラーで描かれたおれの似顔絵がありその下には、
“ご連絡は水上レストラン「バラティエ」スタッフ、サンジまで”
と書かれている。

おれはそんなチラシを作った自分自身と、
その器用な手先をを呪った。




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