【スティル・グリーン】

-P17-



夕日を背にして扉の前に立つリリースク国王は、
逆光でその表情を見せない。

「そこに倒れているのは、コック長か」

「は・・・はい、左様でございます。」

見習いが質問に答えると、
親父の背後からなぜか王室直属の医師である、
細面の小男が顔をのぞかせた。

そしてルッコの亡骸に早足で歩みより、
状態を確認すると、こう言った。

「これは、コプリ茸にやられていますね。猛毒です」

「コプリ・・・?」

初めて聞く名だった。

「のど元に赤紫の斑点が出ているでしょう。
これはまさしくコプリ茸を食した証です」

医師の小男は冷静に答える。

おれはますます混乱していた。

ルッコは明らかにこのスープを飲んで倒れた。

じゃあ、このスープにその毒キノコが?

だとしたら、いつ、誰が!?



・・・そして、なぜここに親父が・・・



ひどくのろく回転する思考を抱え、
おれは黙ってうつむくことしかできない。

すると親父がおれの方を向いて口を開いた。

「お前の大声を聞いてきてみれば、
なんなのだ、これは!」

声自体はけして大きいわけじゃないのに、
その威圧的な響きにおれは恐嚇した。

おれが何も言えないでいると、
親父はルッコが握ったままでいるスプーンを見て言った。

「コック長が持っているのはスプーンだな?
その横にあるスープに毒キノコが入っていたのか」



おれは今にも消えてなくなりたい気持ちでいっぱいだった。



ヤッパリ、オレノ、スープノセイナンダ・・・



「誰が作ったスープだ!申せ!!」

親父が今度は城中に響き渡るような大声で叫ぶと、
厨房にいたコックたちに見えるような緊張が走った。

「申すのだ!!誰が作った!!」



おれだよ



「父上、ぼ・・わたくしです」

「なんだと・・・?」

親父はものすごく高い位置からぎょろりとおれのほうに目玉を向けた。

「お前がルッコを“殺した”のか?」



ああ、そうだ



「・・・!・・・・そうです・・・!わたくしが・・・・!」

殺した、という言葉をきいたとたん、また涙がこみ上げてきて、
必死にそれをこらえながら言いかけると、
厨房の奥にいたパティシエ見習いの男が急に、声高に言った。



「ぼく、こいつがスープの鍋になにか入れているのを見ましたよ」



そう言って指差した先にいたのは、
さっきまでおれの肩を抱いていてくれた見習いコックだった。

「な・・・・ッ!?」

見習いが驚愕の表情を見せる。

「確か緑色の粉だったような・・・」

「王!コプリ茸は緑色にございます!!」

パティシエ見習いの言葉に、医師が真実味を加える。

「なんだと・・・?よし、その者を捕らえよ!!」

いつの間にか後ろに待機していた衛兵たちが、
見習いの両腕を抱え、厨房から引きずり出そうとする。

「王様!!そんな・・・!話がちが・・・」

そこまでいうと、腹に当身を食らわされた見習いは、
気を失ったのか全身を衛兵たちに預けた。

「恐ろしい・・・!コック長を殺せば、
自分が昇進できるとでも思ったのでしょうかね!」

医師は両手で自身を抱え込み、
わざとらしく怯えるような口調で王に問いかけた。

「明日、夜明けとともに縛り首の刑に処す!
ここにいるものはこんなことは通用せぬと肝に銘じよ!」

そういい残すと親父はマントをひるがえし、
一刻も早くこんな場所から離れたいといわんばかりに
大またで厨房を後にした。



去っていく硬い響きの靴音が、 今でも耳から離れない。



後日見習いパティシエは、
パティシエに昇進していた。




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