【スティル・グリーン】
-P19-
* * *
ヒメウが流れ着いてからというもの、
おれは給仕長のラビオの部屋を間借りしていた。
ラビオの接客は超一流で、
おれはその機転が利き、
かつ柔らかなもてなしをいつもお手本にしていた。
外見も柔和な性格をどこかあらわしていて、
物腰柔らかな優男というところだろうか。
店に来るレディたちからは、
女好きのデュラムなんかよりよっぽど人気があって、
当のデュラムからは煙たがられていた。
おれが今入ろうとしているこのドアからも、
よく違う女性が出てくるところを見る。
「ラビオ、入るよ」
そんなこともあってか、
おれは声高に入室を宣言した。
「おやサンジ、いつもの練習はもう終わったのかい?」
デスクに向かってなにか書きものをしていたラビオは、
おれに気づくとこちらを見やり、
色白の顔に練乳みたいな甘い笑顔をつくって
オレンジ色のランプの光に浮かび上がらせた。
「クックとキックの練習。あはは」
「お前、人の鍛錬をそんなギャグみたいに・・・」
おれはため息混じりに、そ知らぬふりで嘘を続ける。
「今日はなんだか疲れたから、早めに切り上げたんだ」
「そうだね。本当に疲れているみたいだ。」
「目が真っ赤で顔もむくんでる・・・寝不足かい?」
「う・・・ッまあ、そんなとこだ」
「あはは、ほどほどにね」
おれは少し上がった心臓のリズムを隠すように、
置かせてもらっている簡易ベットに滑り込んだ。
ラビオはいつでもなんでもお見通しみたいな雰囲気で、
気が抜けない。
だけど、いつだっておれに的確な言葉をくれるんだ。
だから・・・
「なあラビオ・・・」
「なんだい、サンジ」
おれが呼びかけるとラビオは、
書き物をしている手はそのままに返事をした。
「ラビオはいつも、女の人をここに寝かすの」
「えっ、なに?」
振り向いたラビオの目が輝く。
しょせんラビオも“バラティエ”の一員だ・・・
「あァサンジ!君はいつの間に大人になったんだ!?」
「ちっちっがう!おれはまだ・・・じゃねェ!!
ちょっと聞いてみただけだ!!!」
「あははははは!どうしたサンジ!恋でもしたの!?
それならデュラムや他のスタッフなんかより、
ぼくに相談するといいよ!」
ラビオはとっくに投げ出した羽ペンをそのままに、
おれがもぐりこんでいた布団をいきおいよく剥ぎ取った。
・・・ラビオは絶対“エス”だ。
おれは観念して、口を開いた。
「・・・・自分でもわかんねェんだ」
「・・・・・あの、おヒメ様だね?」
「ああ・・・」
やっぱり、お見通しだ。
「なにしてたって気づくとあいつの顔が浮かんでくる」
「だけどそれは、あいつの体が心配でとか、
他にもちょっと事情があって・・・それで、
ただ気になってるのかと思ってたんだ」
「ふんふん」
「でも・・・さっき、おれの部屋の前を通ったとき・・・」
そう、ヒメウに事を話そうと、
部屋をノックしようとしたとき。
「中から、ヒメウのすすり泣きが聞こえた」
押し殺すような、かすかな、かすかな。
「それを聞いておれは・・・・・・・」
「すぐにでも部屋に飛び込んで、
あいつを抱きしめたいと思ったんだ」
だけどおれの手はノックのかたちのまま固まり、
足は自然とこの部屋に向かっていた。
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