【スティル・グリーン】

-P21-



「ヒメウ、起きてる?」

ラビオの部屋とは打って変わって、
おれは極力やさしいく呼びかけた。

「・・・サンジ君・・・?」

細い声が返ってくる。

おれはその少し掠れた声の理由を知っているから、胸が痛んだ。

「少し、いいか?」

「は・・・うん」

最近のヒメウは慣れないタメ口を必死に操ろうとしている最中だ。

年上にこんな感情おかしいかな。

それを可愛い、と感じるなんて。



おれは腰掛ける場所を迷いつつ、
ヒメウがベッドから降りようとするのを静止することも兼ねて、
そのベッドのへりに場所を決めた。

「あのな、たとえばマシコかもしれないひとが見つかって、
でもそれが不確かな情報だとしたら、お前どうする?」

「母が・・・見つかったんですか・・・!」

「まだ、可能性だ。人違いってこともある。
しかもそれを確かめに行くのは、今のお前の体には結構な負担になるだろう」

「どうす・・・」

「行く!行きます!」

おれの問いかけにかぶせるかたちでヒメウは即答した。

やっぱり、聞くまでもなかったな。

「じゃあ、お前に必要なのは“覚悟”だ」

「覚悟・・・?」

「その人がマシコじゃなかったとき、
決して絶望しないと、そういう覚悟だ。できるか」



「できるわ。もしも人違いだったら、また探せばいいもの!」



かつてない力強く、迷いのない口調だった。

「そうか」

ランプひとつの薄闇の中で、
なぜかヒメウをまぶしく感じたおれは、
思わずふいと顔をそむけた。

するとベッドの背もたれに体をあずけていたヒメウが、
ゆっくりと上半身を自立して前屈し、
自身のひざを布団の上から抱えるのが視界の隅に入る。



「・・・サンジ君の方こそ、覚悟はできていますか?」



「なっなんで!」

思いがけない切り替えしに、思わず声がうわずる。

ヒメウはそれが癖なのか、首を傾けて、
そしておれを覗き込むように顔を近づけた。



「だってサンジ君、今にも泣き出しそうだもの」



「!!」



おれは、心臓をつかまれた気分だった。



おれは、ばかで、未熟だ。



覚悟ができてないのはおれの方じゃないか。

おれは、もう、これ以上大事な人を失いたくない。

傷つきたくない。

逃げ出して、自分を責めるのももうたくさんだ!

おれはヒメウをに言い聞かせるふりをして、
弱い自分の隠れ蓑にしようとしていたんだ。

その上そんな部分を誰にも気づかれたくないってそんなプライド、

そんなクソみたなプライド、

おれはなにを後生大事に掲げてんだ!!



「・・・・・ッ」

「サンジ君・・・泣いてるの?」

「・・・いてねェッ・・・!」



確かに涙は出ていなかった。

だけど心の中は、悔し涙で決壊寸前だった。

デュラムの前ではあんだけ出た涙が、
ヒメウの前では外に出ない。

いや、出しやしない。



おれが、ヒメウの泣く場所になるんだろ?



もっと、

もっと、

強くなってみせろ・・・!










NEXT→

←BACK

TEXT TOP