【スティル・グリーン】

-P22-



おれはふくらはぎの筋肉にくっと力を入れ、
誓いをこめて、翡翠色の瞳を見つめなおした。

息がかかる距離で、ヒメウが不思議そうにまばたきをする。





ああ・・・・・・・



やっと、この感情に名前がついた。



おれは、君に恋してる。



「ヒメウ・・・」



いつも平気で口にしていたその名は、
急に特別な意味を持って放たれる。



「サンジ、くん?」



そして君が口にするおれの名も、
心臓を揺さぶる凶器にかわった。



黙って、



唇を閉じて、



だけど瞳は閉じないでいて。



これからおれは、変わるから。



ひとつだって見逃さないでいてくれ。



そんな願いを知ってか知らずか、
ヒメウはその大きな瞳を見開いたままで、
おれの口づけを受け止めてくれた。



* * *



おれたちは夜が明けてすぐの出航を決めていたが、
おれはこの期に及んで迷っていた。

ジジイにまだ何も告げていなかったからだ。



これから数日ここを空けることも、
その理由も、
おれの出生についても、全部。



ジジイはすべてを知ったらなんて言うだろうな。

あいつはおれの命をつないでおいて、
おれの過去には一切触れることはなかったし、
これからおれがどうしたいのかも
特に聞かれたこともない。



だけどおれのすべてを聞いたら、
今度はなにか言ってくれるのか?

それともやっぱりここから追い出すだけだろうか。



・・・・・・て、

まったくおれは・・・

何を言ってほしいと言うんだ。

てめえからあいつのすべてを奪っておいて、これ以上なにを望む?

昨夜あんなに強くなろうと誓ったのに、
相変わらずの自分にため息が出た。



「よお、サンジ。眠れたか?」

「デュラム・・・ああ・・・」

「お、なんだなんだ!これから希望の船出だっつーのに、元気ねーなー!」

デュラムはそう言いながら、
おれの背中を馬鹿力で叩いた。

「ってえな!たく加減を知らねェやつめ!・・・あ」

そうか、デュラムは腐っても副料理長だ。

「・・・あのよ、デュラム」

「オゥ、なんだ。」

「ジジイには・・・言ったんだろ?このこと。
副料理長が黙って何日も厨房空けらんねェもんなあ」

「オーナーに?ああ、もちろん言ったさ」

「・・・ジジイ、なんて?」

「ん?気をつけろ、だとさ」

「へ?・・・それだけか?
おれも一緒に行くことは?」

「ああ、伝えたぞ」

「・・・・・・・そっか」



そっ、か。



おれは胸の中で復唱し、
気合を入れて帆を張りなおした。

しぼんだ心をこの帆みたいに、
無理やりふくらかよのうに。




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