【スティル・グリーン】

-P28-



「眠れなくて」

パジャマから伸びる白い素足はそう言って、
おれの方に近づいてくる。

そしておれの眼前で止まって折れ曲がり、
同じように白く、そして細い腕に抱えられた。

「お前もか、ヒメウ」

おれは火のついたままのタバコを海に放り投げ、
ヒメウと向き合うかたちであぐらをかく。

投げられたタバコは音もなく、
濃緑の海に吸い込まれていった。



「初日からこれじゃ、先が思いやられるね」

「じきに慣れるさ」

「そうかな・・・」

ヒメウは小さくあごを上に傾けて、
月光を浴びた頬はその白さを増す。

「サンジ君も、眠れないの?」

「ん・・・夜の海は、苦手でさ」

「・・・・・・オーナーから少し聞いたわ」

「そうか」

「私は・・・初めて乗った船が難破したから・・・
船が苦手になっちゃったみたい。
乗るまで気がつかなかったけど」

そう言ってヒメウは笑ったが、
瞳の奥に嵐の夜に味わったであろう恐怖の色が覗いた。

目の前で母親と引き裂かれたんだ。
船を嫌って当たり前だよな。

おれは、その痛みがよくわかるよ。



おれが黙っていると、
ヒメウは小首をかしげるいつものしぐさを見せて、
少しためらいがちに話しはじめた。

「私・・・私ね、サンジ君に・・・いえ、王子に、
ずっとあこがれていたの。
初めて会ったときからよ?」

「え・・・・・・」

突然の告白におれは、肩をぴくんと揺らす。

「式典などで拝見したことはあったけれど、
初めて間近で王子にお会いしたとき・・・
覚えていないかもしれないけど、
私はあなたに釘付けだった」



覚えているよ。

おれはそう声に出すかわりに、
ヒメウの瞳をじっと見つめた。

ヒメウはおれをまっすぐに見つめ返し、続ける。

「王子のその、王室の誰とも違うブルーの瞳が、
いつまでたっても離れなかったわ。」

「こんなきれいな男の子がいるんだって、
自分が恥ずかしくなるくらい」

「ヒメウはきれいだよ」

「・・・・っ」

おれが臆面もなくそう言うと、
あのときと同じようにヒメウは頬を赤く染めた。

「そんな・・・だけどそうだとしたら、
サンジ君のおかげだわ」

「初めてお会いしたその日に、
自分を変えたくて、髪を切ったくらいだから」

切り過ぎちゃってこーんなだったのよ、と
おでこのだいぶ上のほうを指し示すヒメウが可愛くて、
おれは思わずヒメウを抱きよせた。

「きゃっ・・・サンジ、ん」

一刻も早くそうしなきゃいけなかったように、
おれはヒメウにくちづける。

昨日と違う、長い、キス。

おれはヒメウにもっとくっつきたくなって、
体をきつく抱き、唇を強くおしつけた。

心臓がつぶれそうに縮こまって、
腹の底が熱い。

唇を離したくないのに、息がやたら苦もんだから、
そのうち息継ぐような細かく刻むキスにかわっていく。

そして何度目かのインターバルのときに
ヒメウから漏れた切なげな吐息で、
おれはさらに熱を帯びた。



息が、苦しい。



最初のキスと、違うキス。

なにが違うかなんてわからないけど、
こんな病気みたいな感覚、初めてだから。




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