【スティル・グリーン】

-P30-



ぼくを見て、

触って。

声を聞かせてよ。

やっと会えたのに、

なんでこっちを見てくれないの?



お母さん・・・



呼べども呼べども後ろ向きで佇んだままの母親の腕を、
おれは確かにつかんだはずだった。

だのに浅い眠りの暗闇の中、
こちらを振り向いたのは、
片足のコック長だった。



* * *



「コォケコッコ―――!!!」

今日もけたたましいトサカの鳴き声とともに夜が明ける。

トサカが朝を告げる少し前から、
おれは朝食の仕込みや洗濯やらで大忙しだった。

なぜなら、野郎ふたりは仕事がないのをいいことに、
ここぞとばかりに朝寝坊をしているからだ。

「おいトサカ、あいつら起こしてきてくれ!」

すっかり準備が整ったテーブルを前に、
おれは少しいらだち気味に言いつけた。

そうしておれは、食事の乗ったトレイを持って、
ヒメウがいる船室へ向かう。

初日の夜以来、ヒメウは体調不良を訴え、
あてがわれた船室で一日のほとんどをすごしていた。

ちょっとばかり医学の心得があるラビオによると、
体力が落ちているところのなれない船の揺れと、
前回の航海の心的外傷で、
神経がまいっちまったんだろうとのことだった。

だけどおれは不安でたまらない。

ヒメウが部屋に篭りだしたのは“あの”翌朝からだ。

あの夜おれが、なにか新たな傷をあたえてしまったんではないだろうか。

ヒメウはなにも言わないけれど、
それがよけいおれを不安にさせ、
こちらから聞くことさえできずにいた。

それでもおれはかすかな期待を胸に、
食事のたび、彼女のもとへむかう。

ふたりきりならば、なにか言ってくれるんじゃないかって。

予定では今日、サンリーフに到着する。

ちょうど1週間の航海の間、
そんなかすかな期待は裏切られ続けていた。








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