【スティル・グリーン】
-P33-
「いいのよ。あら、アパレシタ」
ばら色の頬の“マドモアゼル”は、
頭を下げるおれたちを諫めて、その頭越しに呼びかけた。
「遅くなってごめんなさい・・・それで、こんな入り口でどうしたの?」
美しくカールした黒髪を束ね、
同じように黒い眉を持ち上げておれたちを一瞥したアパレシタは、
ばら色の女性の横に並んで腕組みをした。
彼女は確かご主人がおれと同じくノース出身と言っていたな。
てことは、
「“マダム”お久しぶりです」
おれが挨拶をすると、アパレシタはしかめていた眉をゆるめ、
そのかわりにその下にある黒く大きな瞳を丸くした。
「まあ、バラティエのボーイさんじゃない!
本当に来たね!無事のご到着でなによりだわ」
「ありがとうございます、マダム」
「それでね、アパレシタ・・・」
ばら色の女性はアパレシタにおれたちを簡単に紹介してくれた。
「そう、あなたがあの倒れていた女性のお嬢さんなの。
男性にまじってここまで旅してくるなんて、あなた強いのね」
アパレシタがヒメウの目をまっすぐに見て感嘆の声を上げると、
ヒメウはすごく嬉しそうに赤く染めた頬を両手で包み、うつむいた。
おれはヒメウのそんな表情を見たのが久しぶりで、
なんだかこっちまで嬉しくなって自然とゆるむ頬を隠すように下を向く。
そしてなぜか同じ角度でうつむくおれたちを見て、
必死に笑いをこらえているラビオが視界の隅に入った。
「そのとおりだわ!そうだ、ねえあなたたち、お食事ご一緒しませんこと?」
女性が名案とばかりに手を打ち合わせる。
「あー・・・嬉しいのですが・・・おれたちまずは宿を探さなくちゃならなくて」
一応おれたちのリーダー役であるデュラムが代表して口を開くと、
なんだそんなこと、とばかりに女性二人は口をそろえた。
「うちの別荘に泊まりなさいな」
おれたちは一瞬たがいの顔を見合ったが、
考えるまもなくその名案に飛びつくことにした。
「あ・・・ありがとうございます!
お言葉に甘えさせて頂きますアパレシタさん、と、えー・・・・・・」
そういえばまだ聞いていなかったばら色の女性の名前を言いあぐねていたおれに、
アパレシタが口添えをする。
「呼び捨てでいいわ、堅苦しいのは苦手なの。
それと彼女の名前は・・・」
「ロクサーヌと申します。私も呼び捨ててくださってかまわないわ」
風貌と似合わぬ情熱的な名前を告げた彼女は、
ワンピースを持ち上げて可愛らしい足首を交差させ、
改めてよろしくね、とおじぎした。
* * *
アパレシタの方の別荘に泊めてもらうことになったおれたちは、
お礼に今夜の夕飯を用意することにした。
別荘には食材が山ほどあって、
どれをいくら使ってもかまわないとのことだったので、
おれたちは存分に腕をふるった。
ヒメウは少し疲れた様子を見せていたが、
即席コック長のデュラムに手伝いを命ぜられると、
どこか嬉しそうにキッチンをパタパタと走り回っていた。
デュラムは元キャプテンなだけあって、
こういうところに気が回る。
役割を与えられる喜びとそれによって出る活力を、
やつはきっとよく知っているのだ。
おれはちょっとだけデュラムを見直した。
これまでの航海で見損ないまくってたから、
これでイーブンだな。
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