【スティル・グリーン】

-P41-



いつの間にか眠りに落ちていたらしい。

朝もやの気配で目覚めたおれは、 尋常じゃないけだるさの中
乾ききった喉を潤そうと無理やり半身をおこし、
ベッドわきの水差しに手を伸ばす。

そのとき、消し忘れたロウソクの灯がガラスの水差しを通して、
サイドボードの上のこぶし大の黒いかたまりを照らし出した。

「う…わああ!!」

「どうしたの、サンジさん!?」

静寂を切り裂くばかでかい叫び声に、
アパレシタが目を覚まして振り向く。

しかしアパレシタがこちらを向いたときにはもう、
その叫び声の元は重たい水差しによって無残にもぶっつぶされた後だった。



「……朝グモを殺めると、親の死に目に会えないって言うわよ」



ああ、もっともだ。



* * *



ルッコと引き裂かれたおれは、
抜け殻のように日々を過ごしていた。



―――この城は、もう、だめです

うん、わかってるよ。

―――どうか、城を、出て、ください

城を出る…



………母上をおいて…?



自分を愛さない妻への焦慮がピークに近かった親父の、
おれや家臣への仕打ちは日を追うごとに凄惨さを増し、
体に新たな色が増えない日はなかった。

それでもそのときのおれに母親を残して城を出ることは、
ありえない選択肢だったんだ。



だけど、母上と最後に会ったのはいつだったろうか。



おれの焦慮もピークに近かった。




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