【スティル・グリーン】

-P42-



そんなある日、久々に母親に会えるチャンスがやってきた。

リリースク王国では成人である、
数えで10歳の誕生日…実際には9歳になる3月2日に、
おれの戴冠式が執り行われることになったからだ。

戴冠といっても現王は存命なので、
正確には王位継承権の授与式のようなものだが。



どうして父上はこんなに急に、
忌み嫌っているぼくに王位継承の決断を…?



不思議そうにしていたおれに、
マシコがそっとおしえてくれた。

「王妃さまが国王に、早期の戴冠を直訴したそうです」

「なんで?」

「マシコもそう思って王妃さまつきの侍女に聞いたんです」

「侍女の疑問に王妃さまは隠すことなく答えたそうです。
“王子の居場所をなくさないためよ”と」

「母上が…?」

母のおれを思っての行動に嬉しさを感じる反面、
漠然とどこか不安だった。



母上がいればぼくは平気なのに、
ぼくの居場所は母上のそばにあるのに、
なんで急に別の居場所をつくろうとするの…?



「もしくは王子にひとめお会いしたかっただけかもしれませんね」

複雑な面持ちのおれにマシコは、
笑顔といっしょに付け足してくれた。



一方、先の王妃――
現第二王妃であるリュシカの母親は、
おれの王位継承をいちばん恐れていたはずだ。

おれが正式に第一王位継承者になれば、
自分は継承者の弟の母親という、
なんとも危なっかしい立場に置かれてしまうのだから。

それを阻止するために、
第二王妃がどんな行動に出てもおかしくない。

ちょっと考えればわかることだろ?

そんなことにすら考えが及ばなかった当時のおれには、
ましてや母が愛息の王位継承と引き換えになにを差し出したのかなんて、
みじんも想像することはできなかったんだ。

しかしはたしてこの時点でなにか気付いていれば、
運命はかわったのだろうか。

この3年間で、何万回も自問自答したことだ。

繰り返しすぎてすりきれたこの問といっしょに、
おれの心もすりきれていくようだった。

今もまだ、なお。




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