【スティル・グリーン】
-P43-
そしてもどかしく時はすぎ、
戴冠式を翌日に控えた夜のことだった。
どうせ興奮して眠れないと踏んでいたおれは、
夜食でも用意しようと人気のなくなった厨房に向かっていた。
だだっ広く静まり返った夜の王宮はぶきみで嫌いだったけど、
このときのおれはへっちゃらだった。
それくらい、母親に会えることが楽しみだった。
母上の髪の色、
瞳の色、
肌の色、
手のぬくもり、
やさしい声。
ぼくを呼ぶ、やさしい声。
まぶたを閉じればすぐにでも再現できる。
そのときもおれはまぶたを閉じて、
すっかり頭に入っている厨房までの道のりを、
鼻歌まじりに軽い足取りで進んでいた。
そのとき、ふいに後ろから腕をつかまれたおれは、
わっと小さく声を上げ、あわてて目を開いた。
振り向いて見上げると、
腕をつかんだのがマシコだということがわかった。
驚かされたことに抗議しようと口を開きかけ、
マシコのいつもと違う雰囲気に気づいたおれは
出しかけた言葉を飲み込んだ。
薄闇に浮かぶマシコの表情は硬く、
その色は蒼白だった。
「マシコ…なに?なにかあった…?」
勝手に声が震える。
心なしかマシコの腕も震えているように感じる。
「ねえマシ…」
「王妃が」
業を煮やしたおれの呼びかけに、
かぶせるかたちでマシコが切り出す。
「王妃が、息をしていません。」
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