【スティル・グリーン】
-P6-
「船には・・・母も乗っていました」
ヒメウの雫は、なおもおれの指先を濡らす。
「覚えておいでですか?王子。
母は、王子付のメイドのマシコです」
「ああ…覚えてるよ……」
なるほど、思い出した。
おれはヒメウに一度だけ会っている。
だけどその黒く長い髪はまるで、
ビロードでできた緞帳のように君を隠していたから、
おれは気が付かなかったんだ。
* * *
「王子、お召しかえのお時間です」
「うん、ありがとうマシコ」
ここは世界の北側ノースブルーの更に北。
王政国家“リリースク”。
おれは、国王トーマの後妻であり、
第一王妃であるヒタキの連れ子だった。
国王は母のことを深く愛し第一位王妃にむかえ、
さらにその母が溺愛するまだ三歳にも満たないおれに、
第一王位継承者の位を授けたのだった。
ところが国王にはすでに先妻がいて、
おれよりひとつ年下の息子リュシカもいたもんだから、
前王妃とその一派には、そりゃあもう、忌み嫌われた。
その上、母親がおれをあまりにも優先するもんだから、
クソ国王は事あるごとにおれを詰った。
風当たりの強い城内で、数少ない味方は貴重だ。
その一人がメイドのマシコであり、
もう一人がコック長のルッコだった。
マシコは、親父に事あるごとに殴られて
頬を腫らして泣くおれにこっそりお菓子をくれたし、
ルッコはおれに夢を与えてくれた。
“オールブルー”という夢を。
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