【スティル・グリーン】

-P7-



「プリンス・サンジ。
私は“オールブルー”以上の楽園を知りません」

これがルッコの口癖だった。

ルッコいわく、昔はクソジジイと同じく海賊だったそうだ。

もっとも、船長だったジジイとは違って、一コックだったらしいが。

しかし優秀な船長は、その一コックのルッコと船員達に、
“オールブルー”を見せたという。

おれはその冒険譚を初めて聞いた日から、
“オールブルー”のとりこになっちまったんだ。



「ルッコ、ぼくもいつか行けるかな。
その楽園に」

「ウフフ。プリンスなら間違いなく行けますよ!」

ルッコはサンタクロースさながらの白髭をゆっくりと撫でながら、
おれが何度たずねたってこりずに笑顔でそう答えてくれた。



おれは学校というものに通ったことがない。

幼い頃から、帝王学、武術、騎士道、
テーブルマナーに至るまで専門家から叩き込まれてはいたが、
すべて一対一で行われるひどくつまらないものだった。

だからこの厨房は、コックという名の先生と、
見習いという名の生徒だらけの学校であり、
当時点でのおれの楽園だったんだ。

この城はクソみたいなところだったけれど、
おいしい料理はおれに生きる希望を与えてくれる。

そうして、コックになることがおれの夢に加わった。



「ルッコはホントにサンタクロースみたいだなー。
コックは白いエプロンじゃないと、いけないんじゃないの?」

おれはいつでも赤いエプロンを太い首からさげてるルッコに聞いた。

「いけないわけじゃあありません、プリンス。
ルッコは赤い色が好きなんです!ウフフ!」

「なんで?」

「オールブルーに沈む夕日はそりゃあキレイで、
真っ赤で大きな太陽は、夜の静寂の合図だったんです。
ルッコはプリンス・サンジや、この城のみんなの、
そういう存在になりたいんですよ!ウフ!」

「あっは!そりゃあルッコは太陽みたいにでっかい体してるけどさ!」

おれはまだ子供で、意味もわからず大笑いするだけだった。



おれはその頃ホントに彼が大好きで、
日に日に愛妻の前夫に似てくるおれを虐待する義父なんかより、
ルッコのことを父親のように慕っていたんだ。



あいつの手によって、終わりを告げられる日まで。




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