【スティル・グリーン】
-P8-
一方マシコはおれの母親代わりだった。
王は母を軟禁に近い状態で自分から離さなかったので、
おれは母親を愛するがゆえに会えないことがなおつらかった。
そんなおれにマシコは同情ではなく、
愛という名の情を注いでくれた。
「王子はお優しすぎるんです。あたしは見てられません!
ウチの娘と重ねてしまって・・・!」
おれの二つ上だというマシコの娘の話はよく聞いていた。
「いいんだ、マシコ。
ぼくにはマシコもルッコもついてるしさ!」
「でも、王子・・・またこんなに頬を腫らして。
またあのダメ王に殴られたんですね!!」
マシコはきいー!と叫んで、
膝枕でおれの頬を冷やしてくれた。
おれが人のぬくもりを感じられるのはこういう時だけだったから、
殴られるのも悪いことだけじゃねェ、
なんてどこかのんびり構えてたんだ。
あの頃のおれにもし会えるなら言ってやりてェよ。
決して、気を抜くなって…!
おれが膝枕でうとうとしていると、
ふいにドアをノックする音で
意識を無理やりひっぱり上げられた。
「どうぞ」
声をかけるとゆっくりと扉は開き、
入ってきたのはおれと同じ位の年頃の女の子だった。
真っ黒の前髪は両目を隠していて顔はよく見えなかったが、
おれはピンときた。
が、おれが口を開く前にマシコは正解を告げた。
「ヒメウ・・・!どうしてここに!?」
やっぱりな。
起き上がって聞いた。
「マシコの子供?」
「あらら王子、よくおわかりで・・・
それよりヒメウ、どうしたんだい!?」
「えと、あの、これ、忘れたでしょ?」
ヒメウが差し出したのは、
マシコがいつも使っている“はたき”だった。
きれい好きのマシコは、
暇さえあればこのはたきでそこらじゅうをパタパタしてる。
「あらー、それ!!」
「お母さんこれないと死ぬっていつも言ってるから・・・」
「そう、死んじゃうわ!
だから城にもスペアを置いてるのよ」
マシコはさっとはたきを取り出し、
きっぱりと言った。
ヒメウは辛うじて見える白い頬を真っ赤に染めて、
「ごめんなさい!!」
と叫んで部屋を出て行ってしまった。
「お待ち!ヒメ!!」
呼び止めたはいいが、重い扉は音を立てて閉まった後だった。
「まったく・・・あの子はそそっかしいというか・・・」
あきれた口調でそういいながらも、
マシコの横顔は微笑みを湛えていた。
おれは、そのとき初めて嫉妬を覚えたんだ。
母親の愛を受けるヒメウを目の当たりにして。
なあ、ヒメウ。
おれたちの出会いは、
ろくなモンじゃなかったな。
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